JaSST関西’18に行ってきた話(セッション 3A-3「お互いが納得感を得られるソフトウェアテスト思考の因子」編)
セッション 3A-3「お互いが納得感を得られるソフトウェアテスト思考の因子」
http://www.jasst.jp/symposium/jasst18kansai/details.html#S3A-3
JaSST の話題もいい加減古くなってしまいましたが、あまり気にせずに続けたいと思います。(まだ公式のレポートページもできてないことなので)
セッション3A-3は「お互いが納得感を得られるソフトウェアテスト思考の因子」ということで、特定の技法や技術というよりは考え方や心構え的な話でした。けっこう普段感じているようなことと同じようなシチュエーションが出てきてドキリとさせられるエピソードなども結構あったように思いました。Jasstは基本的にテスト設計やテストアーキテクチャを志向している講演が多い印象なのですが、こと関西(って関西しか参加経験ないですけど)においては結構テストマネジメントな話題もちょいちょいある感じですね。
講演者の杉本さんは現在京セラドキュメントソリューションズにお勤めで、その前はソフト開発会社でテスト業務の受託などもされていたそうです。なので、メーカーと請負の双方の立場を経験されていることになります。
講演の背景として、ネットワーク化が進み、また製品も単に提供されるだけではなくて、サービスやソリューションの一部になるということが年々増えており、システム同士がさらに上位のシステムを構成するというシステムズエンジニアリングなんてことが言われるようになっているという状況があります。ここで演者は問いかけます。「システムとシステム、モノとモノのつながりを論じる前に人と人のつながりはどうなっていますか?」と。
意外と価値観や意識の差があるままコミュニケーションしてませんか、というわけです。そのあたり、納得してコミュニケーションすることが必要だよね、という趣旨でどういうような要素があるのか、ということをお話する、という趣旨の講演でした。
というわけでステークホルダーとの関係構築に必要なスキルや心構えについて話が進んでいきます。一例として欧米やインドの話が出てきて、日本に比べるとより低コンテキスト、言われていることはきっちりやるけれど、それ以上は・・・。というようなエピソードが語られます。このあたり、別にどちらがいいというわけではありませんが、少なくとも日本風のコミュニケーションを期待していると痛い目には遭うので、そのあたり納得ずくでコミュニケーションしないと、というのはそのとおりだな、と感じました。
話はそういったコミュニケーションに必要な資質、というところになっていきます。このあたり内容の性格上、なかなか明確に言葉で定義するのが難しいこともあってか、事例に関しても
- センスのない例
- 会話中に関係のない話をして何の話かわからなくなる
- アウトプットがインプットに完全に依存している
- センスのある例
- 御用聞き的な働き
(=不足している部分を見つけ出す、ってことですかね?) - ステークホルダー間のつなぎ
- 想像力
- 仮説思考、水平思考
(=これは課題にあたったときに止まってしまわないということかな?)
- 御用聞き的な働き
というような感じで少々エモい感じの表現になってます。
そして最後に出てくるのが『ゴッドハンド資質』なるもの。私の場合、テストでゴッドハンドと聞いて思い出すのはこれだったりします。
テスト設計コンテスト2013 関西地域予選 招待講演 - YouTube(28分55秒のくだり)
https://www.youtube.com/watch?v=zhIk9G7S1Ok&t=28m55s
といっても別にdisっているつもりはありません。一方で実感としてはわかります。何をやってもスジのいい人、というのはいてはります。ゴッドハンドにしてもスジのいい人にしてもその影にはそれなりの理屈なり何なりがあってある種必然的にうまくいっているわけですが、外側から見ている人にそれがすべてわかるかというとそれはまた別の話でして、十分に発達した科学は魔法と見分けが・・・というアレでしょうか。そんなわけで、そういったものを集めて分析する上で仮に「ゴッドハンド」とラベリングして貯めておく、コレクションする、くらいの感覚で捉えるのがいいのかな、と思いました。少なくとも『よーし、ウチでもゴッドハンドを育成しよう!』というのは私には無理だし、社内の他の人がやるにしても成功しない気がします。仮にできたとしても職人的になるでしょうから育成スピード的に見合わないのかなーとか。
話はもう少し具体的になっていって、今度は実際にテストエンジニアに必要な資質を
ヒアリングしてみた、という話題になります。出てくるキーワードは
- 論理的、批判的
- 多能工(他人の領域にも踏み込んでいく)
- 理論的、理想思考(若手の場合、という条件がついていました)
- 論理的、現実思考(マネージメント層の場合、という条件がついていました)
- テストエンジニアに大丈夫と言ってほしい
- テストの一般化
- 客観的事実の積み上げ
- 設計者の後追いでないテスト
- 独立した観点(ロバスト性、と言われていましたが、外乱に強い、というのとはちょっとニュアンスが違う気がします)
という感じでした。一部独特な言葉づかいなところがありましたが、例えば「理論的、理想思考」というのはToBe志向(~であるべき)ということかな?逆に「論理的、現実思考」というのはAsIsとまでは言わないまでも、よく言われる地に足のついた、という感じでしょうか。
同じくテストの一般化、というのは多分、ですが「世間で言われているスタンダードなどに照らして妥当であることを説明してほしい」、みたいな感じでしょうかね。割とよく聞かれますよね「それってお前理論ちゃうんか?標準とか、なんかないの?」みたいな感じで。わかります。
さて、そんな理想に近づくにはどうすればいいのでしょうか。
演者は、テストエンジニアと開発者はやりとりしているようで、実はテストエンジニアから開発者へは指摘なり要求ばかりの1wayな関係ではないか、と指摘します。なので、それにとどまらない多様なoutputを開発者に提供することで、この一方通行を改善してコミュニケーションをよくできるのでは、と言うわけです。例えばテスト手法とか問題の切り分け方などでそういったことができるのではないか、ということでした。これも感覚的にはよくわかります。「開発者にナメられないようによく勉強しましょう」とか、「一目おかれるテストエンジニアになれ」みたいなことでいいのかな?問題はどうやったらそうなれるか、わかんないってことですけども。このあたりは簡単な答えはないのでしょう、きっと。あとは自らパイロット運用して背中で語る、とかアウェーに身をおいて常に鍛える、などのことをおっしゃっていました。逆に上司への要望としては「上げた技術力に応えてほしい」「知識ではなくてアイデアを示してほしい」というようなことを挙げられていました。
全体的に課題を共有する、という感じでしたので、「よーしこれでわかったぞ」という感はないのですが、だからといって講演として良くないわけではなく、なかなか共感するところが多かったです。
「メーカーの人は作業が少なくなるのはいくら少なくなってもなーんにも言わないんですけどね、請負になると”稼働”の問題があってまた全然違うんですよねー」とかいうエピソードもワタシ的には “Exactly.(そのとおりでございます)” としか言えないし、(あるべき姿なのかどうかはさておき)非常によく分かるところです。どちらかというと講演というよりは懇親会でオフレコ話を聞かせてもらうといいのかもしれないな、とか思いました(笑)